私抜きで進めるなよぉ

…両親への挨拶

プロポーズよりも結婚式よりも、世の男性諸氏が最も緊張するのは、やっぱりここでしょ。…彼女の両親への挨拶…

「お嬢さんをください!」
ってな感じの台詞、ドラマではよく使うけど、「下さい」ったって…
私が娘の父なら「娘はモノじゃない」とか「俺の所有物じゃない」あるいは「あげないって言ったらあきらめるのか」なーんて、あげ足を取りたくなる気がする(意地悪)。

とはいっても、他に何ていうんですかねえ…

そう、何ていうんだろう、「奴」の場合…。

花ムコ殿は私の両親に会うのは初めてではない。でも、挨拶してから1年近くもその後の展開を「ほったらかし」にしておいた以上、両親も内心穏やかではないはず。それは花ムコ殿も承知の上だ。
それに、舌先三寸で世の中を渡るタイプ(?)に見える奴だけど、ことこういうことに関しては、案外マジメで、からっきしダメ。
さて、そこでなんと言うか。
なんとなく、この台詞で、花ムコ殿の男としての度量が測れるような気がして、ひそかに楽しみだったりして。

当日、朝一番の新幹線で北上した私たち。
花ムコ殿は、緊張と疲れでちょっとしんどいみたい。こんなんで大丈夫かなあ…。

そしてもうひとつ、私には一つ心配事があった。

「姉」です。

私の姉は、相手かまわず歯に衣着せぬ物言いで、私の友人にも恐れられている。 おまけに、どうやら花ムコ殿のこともあまりよくは思っていないらしい。
現在は結婚して、実家を出ているけれど、休日にはしばしば遊びに来るし、もし今日来てしまったら…と思うと、ちょっと冷や汗。まあ、花ムコ殿もそれは知っているので、心して接してくれるとは思うけど…。

いよいよ実家に到着すると、両親がにこやかに彼を迎えてくれた。

でも、やっぱり前とは様子が違うのよね。
前は「やあやあ」と歓待してくれた父。でも今回は、居間に彼を通すと、何も言わずに、花ムコ殿にビールを差し出した(朝から…)。そして、『さあ、言うことがあるんだろ、早く言いなさい』とでも言いたそうに、敵の出方を伺っている。おまけに、母まで父の横に陣取り、二人で思いっきり臨戦体勢(?)。 着いたばかりだというのに、気が短いのね…
それを感じて、余計緊張している花ムコ殿。は、は、は…

私はそんな様子をチラッと見、落ち着いて見学するために(おいおい、人事か)とりあえず用を足しに部屋を出た。そして、戻ってきたら…

ギャッ!玄関に、なんと姉がいた!

「お、お姉ちゃん、今、○○さん(花ムコ殿)が…」
「知ってる、だから来たの」
なに〜っ?!…姉の出現にむちゃくちゃ焦り、慌てて居間に入ると、

「○○さんの申し出、(もう)お受けしましたからねっ♪」と母。

は、はあ〜〜っ?
…私がいないうちに、話、済んじゃったわけっ?
なんで、なんでそんな大事な話を、私ぬきで進めちゃったわけーーっ?
(面白半分だった天罰かしら)

話によると…

私が席を立った直後、花ムコ殿が、何か言わなければとますます焦っていると、見上げた父…の背後の窓を、突然姉の車が通り過ぎた!
これに慌てた花ムコ殿、「鬼のいぬまに(?)」と、すぐさま話を済ませてしまったそうな。

なによ〜っ、それ…。だからといって、私のいないところですませるなんて!!

…こうして、またしても私は一生に一度の言葉を聞き逃してしまった。 セリフとしては、ごく普通に「お嬢さんを下さい」みたいなことを言ったらしいけど。あれれ、意外にノーマルなのね…。

ちなみに、私の両親の返事は、
「返品は出来ませんけど、それでかまいませんか?」
だってさ。おいおい、私はモノか、っての…。

その後、話の済んだ花ムコ殿は、ほっと一安心で、鬼ならぬ姉と談話してました。ははは…。